以前、子育て向上委員会ホームページの掲示板で、父親の帰宅時間について盛り上がったことがある。そもそもの発端は、ある母親による掲示板への投稿だった。「夫は帰宅が毎日9時過ぎで、子どもと関わる時間がほとんどない。子育てにもっと参加してもらわないと、自分自身もしんどくて仕方ない」というのが大体の内容である。
間もなく、似たような状況の母親たちから、コメントが発せられた。「私はもうあきらめています」、「ウチもほとんど母子家庭」、「平日は無理だから、なんとか土日だけでも」。父親不在と言われる現代の家庭環境を垣間見た気がした。「9時に帰ってくるならまだいい。ウチは12時過ぎがザラ」という投稿もあった。最後にとどめを刺したのが、「今日の主人の帰宅時間は朝の6時でした」というもの。日本の男性は、与えられた24時間のうち、果たしてどれだけの時間を家庭で費やせているのだろう。
毎年、日本人の年間労働時間などというデータが公表されるが、他の先進諸国と比べてさして大差のない労働時間をそのまま信じる人はいないだろう。とにかく「サービス差残業」と称される、公にカウントされない労働時間が、日本の男性には多すぎる。家族みんなで夕食のテーブルを囲むこと、そんな当たり前のことが、今の日本ではかなえられない。そのような状況では、男性は仕事のことで頭がいっぱいになる。妻が育児の悩みを相談したところで、真正面から受け止められる人はどれだけいるだろうか。
子どもが育っていく課程で、父親が及ぼす影響は、計り知れないものがある。「父親不在」などという不名誉なキーワードは、早いうちに捨ててしまおう。子どもが父親を必要としている。そして、パートナーである妻が夫を必要としている。
企業は、今一度、社員のあり方について再考していただきたい。定時に帰ることをよしとしない雰囲気。8時からスタートする会議。つきあいの飲み会、等々。これらのものはもう20世紀で終わりにしたらどうか。
経済活動を何より最優先させてしまった結果、未来の人材を育成する育児という分野に大きなひずみが出始めている。子どもの未来を守るためにも、本当の意味での豊かな社会に私たちは変えていかなければならない。